ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第19回奨励賞るとの指摘も当然である。わざわざ敵国条項の存在を取り上げるまでもなく、それが第二次世界大戦の戦勝国の既得権益を護る目的で生まれたことは言うまでもない。1945年2月のヤルタ会談で何よりまず『五大国一致の原則』が確認されたように、平和という名の現状維持=大国支配の継続こそが国際連合の(設立当初の)使命であった。ところが、東西冷戦によって連合国は実質的に解体し、国際連合も機能不全に陥って無力化する。それは単なる交渉もしくは非難の応酬のテーブルにすぎなくなってしまった。だが、逆にこれによって国際連合は救われたとも言える。無力であるが故に自由を得、また信頼されたのである。アジア・アフリカにおいて生まれた百ヶ国以上の新興独立国家及び日本やドイツ等の旧枢軸国が加盟したことで国際連合さらに国際社会は変身を遂げた。言うなれば、産みの親である旧連合国の期待を裏切って、結果的に国際連合は現状の変革を推進してきた。理想主義と現実主義、小国主義と大国主義、総会と安保理を巧みに使い分けながら、国際連合は現在までしぶとく生き残ってきた。国家と民族とイデオロギー、平和と戦争の荒波の間を苦労して泳ぎつつ、またさまざまな辛辣な批判によく耐えながら、国際連合は今や五世紀に及ぶ『国家の時代』を終焉させ、『地球市民社会』なる新しい時代の扉を開こうかというところまでたどり着いた。冒頭で引用したアナン事務総長の言葉も、そんな自信に裏付けられたものと言えるだろう。世界の恒久平和実現に向け、国際連合の積極果敢な行動を期待する声は以前にも増して高まっている。しかし、――それでもしかしである。国際連合は国際連合自身によって、これまで以上に厳重に警戒され監視されなければならない。何故なら、繰り返し述べてきたように、『地球市民社会の時代』においては国際連合だけが唯一「正義の戦い」を許されるからである。そしてその「正義」に群がる輩が必ず出てくるからである。付け加えれば、「正義の戦い」には際限がなく、誰にも止められないからであり、そして最後に、その「正義の戦い」がいつか「正義だけの戦い」に変わってしまうからである。265