ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第19回奨励賞どこの世界でも前科・前歴があれは警戒される。警戒していれば対処の仕方も研究され、被害も比較的小さくて済む。「王」も「神」も「国」も、また「独裁者」も「民族」も「イデオロギー」も、国際社会においては既に有罪の確定した前科者なのである。それらが今なお危険であり警戒を要することに変わりはないが、世界中が監視を続けている限り大戦争・大紛争へと到る可能性は小さい。それらが単独で平和の旗をいくら高く掲げてみても、誰も信用しない程度に人類は賢くなっている。逆に危ないのは、それらの権威や権力を削ぐ為に起用した新任の保安官の方である。何しろ先に挙げた前科者達の多くも、かっては正義の保安官として期待されて登場したのだから……。21世紀に新しい形の国際紛争が起こるとすれば、それは20世紀の国際紛争の当事者達を否定する者によって引き起こされることは確実なのである。つまり、彼等は国家や民族やイデオロギー等の権威と権力に歯向かう者であると同時にその権威と権力を引き継ぐ者である。国家や民族やイデオロギーの為に命をかけられなくなった若者を再び戦場に送り出す為に、彼等を納得させるだけの新しい価値=権威がどうしても必要になってくる。遺憾ながら、現時点でその最有力候補は、価値としての「地球」であり、「人権」であり、イデアとしての「民主主義」・「人道主義」であり、また主体としての「地球市民」=NGO・NPOである。先に述べた通り、「21世紀においては地球市民が戦争や紛争を惹起する、少なくとも地球市民の名において、あるいは地球市民の支持の下で戦争や紛争が遂行される」と考えられるのである。最も危惧されるのは、戦争という最終手段を封じられた国家が、NGO・NPOの名を騙ることで、あるいは特定のNGO・NPOの活動を援肋することで自国の利益を追求・実現しようとすることである。要するに、NGO・NPOが国家の対外戦略の一部に組み込まれ、一種の「平和な攻撃」・「平和な戦争」になってしまうのである。国家にとってこれほど便利で安上がりで安全な戦争はなく、また相手側にすればこれほど防ぐのに厄介な攻撃はな261