ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

貿易センタービルが選ばれたのも、アメリカ経済に打撃を与える為にそれ以上の標的は考えられなかったからにすぎない。テロリストの肩を持つわけでは勿論ないが、冷静になって考えてみれば、交戦国に対する奇襲攻撃として9.11は別に目新しくとも何ともないのである。まして軍事革命(RMA)によって決定的に開いた戦力差を埋めようとすれば、テロもしくはテロに準ずるような攻撃しか残されていない。旧ソ連軍に対して極めて有効だったタリバンの山岳ゲリラ戦術も、十年後のアメリカに対しては全くの無力であったことがそれを如実に証明している。思うに、問題の所在はそんなところにあるのではない。9.11同時多発テロの新しさは、『国家の時代』における国際社会・国際紛争の常識を完全に覆したところにある。つまり、第一に明らかに国家でないものが戦争の一方の当事者になった点であり、第二には戦争の当事者でありながら両者の間に戦争事由となるような直接の利害の衝突が存在していない点である。ビンラディン率いるアルカイダはどこから見ても国家ではない。PLOのような準国家とも言えないし、将来的に国家や政府になることを目指していないのだから民族解放勢力や反政府ゲリラ組織等の革命集団とも本質的に異なる。彼等の行動範疇には進撃も撤退もない。活動拠点は必要としても、領土や勢力圏・支配圏を確保しようとか拡げようとかいう気が最初から全然ないからである。また、彼等はアメリカに対してアラブ世界からの撤収を要求しているが、それは彼等の集団にとって直接の利益となって還元されるものではない。彼等の国籍はさまざまであり、出身階層も大富豪から難民まで実に多彩である。要は、彼等が特定の国や特定の階層の利益を代弁したり追求したりしているわけでないことは明白なのである。イスラム原理主義という共通項はあるものの、その布教の為に戦っているわけでもない。彼等はアメリカをイスラム化しようなどとこれっぽっちも考えていない。結局、このように考えていくと、同時多発テロという事件以上に、アルカイダなる集団256