ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

されようとしている。日本政府からの積極的な支援もあり、2001年6月にニューヨークにおいて『人間の安全保障委員会』(緒方貞子共同議長)の第1回会合が開かれた。おそらく『国家の時代』から『地球市民社会の時代』への転換、『国権の時代』から『人権の時代』への転換は、私達の想像を超えるスピードで実現されるだろう。否、『国家の時代』の終焉は既に最終段階にあると言って過言ではないのかもしれない。第一次世界大戦を境に国家の絶対数は増加に転じ、巨大な帝国から小さな国家群への分裂・解体現象は九十年後の今なお続いている。入々はもう国家に対してスケールメリットを期待しなくなっているのである。国家主権そのものがある種の幻想になりつつあると言ってもいい。地球上の全ての国家はもはや「半主権国家」にすぎないと主張する政治学者もいるくらいである。事実、国際社会における相互依存の深化は不可逆的に進行し、大国と呼ばれる国々ですら政治・経済・文化・軍事その他あらゆる側面において一国のみで自立して判断し行動することは不可能になってきている。東西冷戦の終結によって唯一の超大国・覇権国となったアメリカもその例外ではない。資本と情報のグローバル化は、国境を地図上の単なる色分け線へと確実に変えていこうとしている。EUによるヨーロッパ統合は、それをさらに破線にしようと試みる。『国象の時代』は確実に終焉を迎えつつある……。しかし、――しかしである。そこにさまざまな困難があり、抵抗があり、落とし穴があることも忘れてはならない。当然のことながら、新しい時代には新しいリスクや新しい不幸・災いが必ず生じてきたことを、私達は改めて思い起こすべきである。そもそも『国家の時代』の主役である国民国家は、国民の生命・自由・財産を護る為に、要は人々の平和と幸福への願いが結集して作られたものである。共和制であれ(立憲)君主制であれ、単一民族であれ多民族であれ、また宗教国家やイデオロギー国家であっても、国家は内外の平和の実現と維持を(少なくとも最終の)目的として成立したはずである。しかし、それがいつの間にか戦争の元凶と見做されるようになる。今では国家があるば252