ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第19回優秀賞冷戦の終焉も歴史における大きな出来事であった。それに加え、ポスト冷戦時代に大きな変化をもたらしたのは2001年9月11日の米国における同時多発テロ事件であった。これを計画したのはウサマ・ビン・ラディンをリーダーとするテロ組織集団アルカイダであるとされ、米国のブッシュ大統領は「新しい戦争」と呼び、同組織ならびにそれを庇護しているアフガニスタンのタリバン政権への報復攻撃を行うとした。米国は同盟国に対しては「報復攻撃に対して味方するか反対するか」の選択肢を迫った。つまり、中立あるいは傍観者の立場は許されない、としたのである。ポスト冷戦時代は旧ソ連が消失したということが大きな事実であったが、このポスト同時多発テロ事件時代とも呼べる時代においては、まさに米国の単独行動主義(ユニラテラリズム)が顕著になった時代であるといえよう。米国のユニラテラリズムは、ブッシュ政権の外交政策が国益を重視する余り、国際社会において他国と協調的行動をとらないとする外交政策である。これまでこの政策に基づいて米国が行ってきた具体的な事例としては、国際刑事裁判所、化学兵器禁止条約、包括的核実験禁止条約、地球温暖化に関する京都議定書、ABM条約、そして人種差別撤廃会議等に対する不参加および脱退が挙げられる。これらは必ずしも国際法上の違法行為を構成するものでもなく、ましてや米国の国際責任を発生させるものでもない。しかし、国際公益のための国際協調が謳われる今日の国際社会からはこうした米国の外交政策に懸念と遺憾の念が事あるごとに表明されている。米国と国連との関係については、利用できるときだけ利用し、反対されるおそれがある場合には国連の利用を避ける傾向にあると言って良い。この米国の外交政策は総体的には自国利益中心主義、反国際協力的であり、ウエストファリアの時代へ国際社会を先祖返りさせるものである。しかし、米国が圧倒的な軍事力を保持している以上、国際紛争の解決における国際連合の役割りを考察する際においては米国を考慮せずにいられないのである。235