ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

ページ
221/1096

このページは 佐藤栄作 受賞論文集 の電子ブックに掲載されている221ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

佐藤栄作 受賞論文集

第19回優秀賞に等しく、時代錯誤の観が否めない。核兵器ひとつをとってもこの5ヶ国には咎めなく保持が認められるのだから、あまりに平等感に欠ける。また、中、ソと米、英、仏とは政治体制が基本的に異なり、ソ連がロシアとなるまでの長い冷戦中、国連が国際平和を維持する機能を果たせたとはとてもいえまい。さらに、これら二体制ともまるで政治体制を異にする文化圏、たとえばイスラム文化圏に関しては、第二次大戦前から冷戦を通じ一貫して二体制に利用され、その間に得たであろう武力と価値観を背景に独自性を表し始めたところが5ヶ国とは相容れず、現在新たな国際紛争の場と化している。5ヶ国、特に米、英に何ら問題はないのか、その検討がなされる間もなく国連の後押しを借りた形で異体制の国家は攻撃対象になっている。米国のイラク攻撃から10年を経て、また同様な攻撃が始まる気配(2002年12月現在)だが、その間、国連に成熟がみられなかった点については、同時期に米国が冷戦を終えて一国巨大国となったことを鑑みれば、現在の国連の形態ではあきらめる他はない。しかし、国連大学がこの10年の間に、あらゆる国際政治状況をシミュレートして紛争回避に関する何らかの研究提案、研究成果を出せなかったことは、甚だ遺憾である。国連の後押しを受けた国際的攻撃には、「世界平和を守るため」という名分がある。確かに日本の近隣国である北朝鮮同様、イラクには、一体どういう国なのか、いかなる野蛮行為を実施あるいは計画しているのかを想像し難いという恐ろしさがある。しかし、武力攻撃を始める際、戦争が殺人であることをすっかり忘れてはいないだろうか。イラクや北朝鮮が犯したり犯すであろう蛮行が殺人に値するのと同様、国連の中枢に鎮座する国が行ってきた武力による紛争解決という手段もまた殺人による手法なのである。これは当たり前のことなのだが、5ヶ国側(実質は米、英)が国際的攻撃を行う最中、攻撃側国家にそう感じている人間がどれだけ存在し得るか、実に怪しい。人間は自分の生(せい)を生きるために生まれてくるのであって、生を筆頭とする入権は犯される理由を持たない。それは見落とされ、忘れ去られることなど信じ難いほど単純219