ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

くとも知的産業、知的ビジネスといわれる分野で日本が競争優位にあるものは非常に少ない。製造業以外で日本が世界に誇れるものは、アニメーション、ゲームといったどちらかというと娯楽に入るもので、途上国が差し迫って必要とするものではない。また、貧困層救済措置について、日本は戦後経済が急激に発展し雇用が安定していた為に貧困層そのものが少なくなった為、国内に貧困救済のためのシステムが国内に確立しているとはいいがたい。近年の経済停滞に伴う失業者やホームレスの増加、難民受け入れ問題は、日本のセーフティネットが、他の先進諸国に比べまだまだ未発達であることを示している。逆に、国内に人種問題を抱えるアメリカや移民問題に悩まされる欧米の方が国内の貧困対策は進んでいる。特に、欧米では教会の活動が活発であるために、それらは途上国への草の根レベルのNGO・NPOとして持ち込みやすい。一方、日本ではNGO・NPO活動が「知的支援」というより、途上国の地域を限定した人道的な見地からの物的支援に留まっている。日本の教育における学力の低下については、近年その議論が喧しい。特に、日本の70年代後半以降の「ゆとり教育」や行きすぎた平等主義による全体的な学力の低下が憂慮されている。組織運営の非効率や年功序列に凝り固まった閉鎖性など、組織としての問題点を初め、技術教育を怠った大英帝国の没落と現在の日本を重ね合わせて議論する向きもある11。日本では、能力の程度の低い学生がより質の高い学生の勉学を阻んでおり、大学間ではっきりと上下の差があるピラミッド型の格付け構造に配列しなおさないと日本は必ず国際競争で敗北するとも言われている12。とりわけ、語学力に対しての危惧は大きく、英語を身につけることが直接所得の増加に結びつく他のアジアの国々に対し、日本の英会話力の低さ、世界共通の英語試験であるTOEFLの得点の低さなど枚挙にいとまがない。中国では2001年10月現在30の大学が、アメリカのMITスローン・スクールを初め欧米の有名大学とジョイント・ベンチャーを設立、MBAコース等を提供しているという13。中国にとっては、自国で大学を設立する資金面、人材面での不足を補うのに欧米の大学の分校を誘致するのは都合が良く、また欧米の大学にしても13億の人口を抱える中国の教育12211日本経済新聞社編「教育を問う」日本経済新聞社、2001年8月。12森嶋通夫「日本にできることは何か」岩波書店、2001年10月。13 R. McGregor,“Survey ? China: Cash at the root of education stand-off: Education”, F. Times, Oct 8, 2001