ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

以前ニューヨークの国連PKO局を訪問したことがある。そこで話を伺った職員の方に国連軍の可能性について恐る恐る尋ねてみた。すると言下に「ありえない」と否定されたのである。言われた当時は自分の無知を恥じた。「現実」を知らないことを恥だと思った。しかしどこかに引っ掛かりがあったのも事実である。今回の論文課題を吟味する中でふと思い出したこの記憶を再検討してみると、今度は違和感の源がはっきりしてきた。すなわちなぜ、「国連に」現実を教えられなければならないのだろうか。外部の人間であるから、国連職員と国連を同一視することに関してはご容赦願いたい。当人もそれを国連の見解として外部に理解されても仕方ないことを覚悟して意見を言っていてしかるべきだからである。もし43条が復活することが実現可能だとしても望ましくない選択肢なのだとすれば、前述の発言も頷ける。だがそれならばこの条項を早々に消し去ってしまうべきである。そうでなければ、やはり国連が理想を捨てて目先の現実をとっているのではないかという違和感を、拭うことは出来ない。仮に国連が理想を捨てたあくまで現実主義の組織になったとして、そのような国連に存在価値はあるだろうか。裏切り、見殺し、不正、そういったものとは無縁の組織だと思うからこそ、人々は国連に期待を寄せるのではないか。それを非現実的だと断じるのは外部の人間には許される、しかし内部の人間には決して許されてはならない。紛争に生活を踏みにじられる人達が最後にすがることができるのが、国連ではないのか。理想の追求を途中で辞めることは、彼らを足蹴にすることである。国連には、たとえ他のどの機関が諦めても、掲げた理想を追求することを、やめないでほしいと感じるのは、私だけだろうか。本稿を執筆するにあたり、自分の知識不足には反省を禁じ得ず、またまさに非現実的であったり、方向性のずれた議論も、あるいはあったかもしれない。今回列挙した解決策のそれぞれについて、仔細に検討し、今後の国連と安全保障を巡る情勢に注目し続けることを今後の課題として、本稿を終えたい。1054