ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第29回優秀賞者とも言えるインドネシア軍に治安維持を委ねており、予想できた人権抑圧をみすみす許してしまった例があるが、この背景には諸外国のインドネシアという大国との経済、政治及び軍事的関係の維持の重要性の考慮と、アメリカやヨーロッパ諸国はコソボ紛争に、そしてロシアはCIS諸国の紛争により大きな関心を寄せていたために東ティモールへの関心が薄かったことが挙げられるという19。またそもそもPKOが派遣されている紛争と同程度あるいはそれ以上に人権抑圧が行われている紛争であるにも関わらず派遣されないケースが、表面に出ていないだけで存在することは容易に推察できる。加えて、前述の多国籍軍への授権の場合にも、当然大国の政治的意思を多分に反映する仕組みが出来上がっている。例えばコソボやアフガニスタン、イラク戦争において、軍事行動は正式に授権されていたわけではなかった。前の二例では多くの国からの支持を得ていたものの、イラク戦争においては多数の反対があったにも関わらず、アメリカやイギリスが個別的な軍事行動に踏み切った点で批判が絶えなかった20。桔梗(2008)ではこうした個別的な軍事行動を後から合法化するための理論的試みが幾つか存在し、その中でも「集団的意思の個別的執行」という理論が有力であると紹介されているが、著者自身も指摘しているように何が集団的意思であり、どういう状況において正当化されどのように執行されなければならないのかが厳格に規定されない限り、国連は大国に無条件に正当性を与える機関に堕してしまう21。事態が一刻を争う場合、既に存在する「集団的意思」を迅速に執行する個別的軍事行動は効果的だが、自国の個別的軍事行動を事後的に「集団的意思に基づくものであった」と正当化するのは論理の順序が逆である。またこうした「お墨付き」を得られるのは軍事的に有力な国に事実上限られることも同様に指摘されている22。2.2国連憲章の恣意的解釈の余地2.1で大国が「平和に対する脅威」(国連憲章第1章第1条)を恣意的に認定する場合があることを指摘したが、裏を返せばそのように恣意的に運用される可能性を持つ概念そのものが問題であるとも言える。その「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存19石塚(2004)5頁、21頁20桔梗(2008)154-158頁21桔梗(2008)172-173頁22西浦(2009)83頁1043