ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第29回優秀賞が明確でないか存在しないことがしばしばであるから、従来型のPKOでは対応不能である6。それに対応する形で、国際人道法および人権法の違反が「国際の平和と安全に対する脅威」として認定されることになった7。同じ背景から、新たに2つの実行形態が生まれた。一つは湾岸戦争を代表例とする、安保理による多国籍軍への授権であり、もう一つは国連憲章第7章を適用した「平和強制」型のPKOの登場である8。前者は、安保理が特定の加盟国に対し国際社会としての目的達成のためにあらゆる必要な処置を取ることを許可するもので、国連が正統性、加盟国が実行力を提供する仕組みである9。後者に関しては、ソマリア・旧ユーゴでのPKOを指すが、ソマリアでPKO部隊自体が交戦主体となって犠牲者を多く出した失敗によって挫折し、PKOに大規模な軍事行動を行わせる政治的無理を露呈した10。なお、その後にも第7章を援用したPKOが多く行われているが、それらはあくまで従来の枠組みの中での自衛の強化と捉えられるべきであり、平和強制型とは本質的に異なるものであるとされる11。井上実佳は冷戦後のPKOを混迷期(旧ユーゴ・ソマリア・ルワンダ)、転換期(中央アフリカ・シエラレオネ・東ティモール・コンゴ民主共和国)、進展期(リベリア・コートジボワール・スーダン・ハイチ・ブルンジ)、現在(ダルフール・チャド・中央アフリカ・コンゴ民主共和国)に分けている12が、試行錯誤を経て現在のPKOは概ね、従来の三原則を維持したまま、自衛の権限を強化され、また複合化した役割(「平和構築」と呼ばれる分野)を持ち、多国籍軍やNGO等との協働関係にある。2.戦後集団安全保障体制の問題点の整理前項で述べたようにそもそも「想定外」であったPKOを中心に支えられてきた国連憲章下の集団安全保障体制には、いくつかの大きな問題があった。以下ではそれを列挙し、それぞれについて整理することで、次章で述べる解決策に至る前提を作る。6すでに国際連合コンゴ活動においてその点が問題になっていた。詳しくは滝口(1997)を参照のこと。7清水(2006)258頁8杉山(1999)96-97頁9杉山(1999)102頁10杉山(1999)110頁11中山(2005)72頁12井上(2011)110頁1041