ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第29回優秀賞となく地道に活動を続けることが重要である。これは、「職員の国連」・「加盟国の国連」・「研究者の国連」に限らず、国連の活動を究極的に支える加盟国の世論、すなわち我々ひとりひとりが銘記しておくべき点である。もちろん、人道危機下の文民に期待しないでほしいなどとはいえない。国連の青い旗・ヘルメットに期待できなくなったら希望がない。敢えて期待を低く設定しておくのは、人道危機とは無縁の生活を送ることができる国の人間の役割というべきだろう。具体的な政策提言とはいえないが、冷戦期に比べ長足の進歩を遂げながらも不全感が残る国連の人道危機政策には、このような二つの発想こそが対策として必要とされているのではないだろうか。おわりに本稿では、国連の人道危機政策の成果と課題、その原因と対策を論じてきた。少なからぬ事例で人道状況を改善してきたという成果の原因は、人道危機の発生・深刻化・再発をとめられなかった先例の教訓を活かし、新たな人道危機政策を次々と生み出してきた「政策の進歩」にあると指摘した。一方、やはり少なからぬ事例で人道状況を改善できなかったという課題の原因については、国連の人道危機への関心の低さ・活動の非効率性や非連続性に原因を求める先行研究の紹介に加えて、「部分最適のパラドックス」という原理的問題を新たに指摘した。成果の原因は課題の原因でもあったわけである。ここで求められるのは、以下の二点である。第一に、人道状況が十分に改善しないのは人道危機への関心の低さによるものなのか、活動の非効率性や非連続性によるものなのか、それとも「部分最適のパラドックス」によるものなのかを見極める力を養うことである。処方箋が異なってくる以上、三者の区別は重要である。第二に、「部分最適のパラドックス」という原理的問題の存在を自覚して、人道状況改善を懸命に目指しながらも敢えて期待を低くしておくことで関与・介入疲れに陥ることなく地道に活動を続けることである。「政策の進歩」に陶酔することなく、「部分最適のパラドックス」に絶望することなくありたい。1033