ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第29回優秀賞分最適のパラドックス」という原理的問題である。これは、各政策の効果(部分最適)を積み重ねても人道状況改善という最終的な結果(全体最適)につながらないという問題である。国連が人道危機へ関心を持ち、各政策が効率的・体系的であったとしても起き得る問題であるため、二つの問題点とは別に新たに議論を立てる必要がある。なお、部分最適のパラドックスが必然的に生じるのであれば、国連の人道危機への関心の低さや各政策の非効率性・非連続性が原因だとする議論と競合することになるが、あくまでも生じかねないという程度であるため、三つの問題点ともに原因であり得る。「部分最適のパラドックス」は、7点指摘できる。第一に、安保理における軍事行動の授権を尊重するあまり、アナンがいう「抑止力としての人道的介入」の効果が低下してしまい人道危機の発生を誘発しかねない。拒否権を持つ常任理事国と強い利害関係を持つ国家が、国連の関与・介入を恐れる必要がなくなり、大規模な人権侵害への誘因を高めるというケースである。実際、ルワンダでは、内戦期に政権支援の派兵をフランスが行なうなど常任理事国と政権との関係が深く、フランス中心の多国籍軍の軍事介入は政権側が劣勢に立たされてからであった。また、先述のとおり、大規模な人権侵害の当事者であるルワンダ政府が安保理非常任理事国である資格を問題にすることもなかった。これらは、傍証に過ぎないが、このパラドックスが絵空事ではないことを示唆している。しかし、だからといって安保理による授権を軽視することもまた困難である。コソボ介入のような武力行使は合法性が疑わしいという頻繁に指摘されている点に加え、脅威認定を安保理決議により「集団的」に行ないながら武力行使を「単独的」に行なったコソボ介入のような事例が起こると、他の理事国が脅威認定自体に消極的になり、ひいては脅威認定すら安保理でなされない純粋な「単独的」武力行使が行なわれるようになりかねない33との興味深い指摘もある。ここに、解き難いディレンマがある。第二に、安保理における軍事行動の授権を尊重するあまり、安保理決議による要請などによる人道状況改善への領域国の同意確保が困難になり人道危機が深刻化しかねない。拒否権を持つ常任理事国と強い利害関係を持つ国家が、国連の関与・介入を恐れる必要がな33 Krisch(1999)pp.92-94を参照。同論文がアメリカのブッシュ政権誕生前に書かれていることは、まさに慧眼である。1029