ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

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概要

佐藤栄作 受賞論文集

第29回優秀賞制約が生じる22ことから、原則を堅持しつつも軍事能力が強化された(robust)PKOが志向されるようになった23。また、アルーシャ和平協定の翌年に起こったルワンダの人道危機のように五年以内の内戦再発確率が約44%24という現実を教訓として、再発を防ぐための平和構築が検討されるようになった。中央政府の統治能力を向上させるために選挙支援にとどまらず、武装解除・動員解除・元兵士の社会再統合(DDR)、治安部門改革(SSR)、司法改革などの活動もなされるようになってきた25。このような平和構築機能はPKOにもみられるようになり、1999年に東ティモールに派遣されたUNTAETなどは選挙支援に加え行政支援も行った。また、同じ教訓から開発援助を促進しようとする動きも広がった。2015年までに達成すべき8つの目標が掲げられた国連ミレニアム開発目標(MDGs)が策定され、各開発途上国自身が3~5年間で貧困削減に取り組む戦略を示す貧困削減戦略文書(PRSP)が作成され始めた。教訓が活かされたのはPKOの機能拡大や平和構築活動の拡大、開発援助の促進ばかりではない。ルワンダでの不作為とコソボでの国連の不在を受けて、人道的介入のありかたが再び問われるようになった。この模索のなかで登場したのが、保護する責任という概念である。個人の生命や安全を保護する責任は第一義的に当該国にあるが、その保護する能力や意思が欠如している場合には国際社会に責任が移るというこの考えは、主権概念の再検討を迫るものとして注目された。また、介入主体については、当初は個別国家による軍事介入が完全に排除されていなかったが、近年では安保理に限ると理解されるようになっている26。この概念が登場した後もリビアやコートジボワールに軍事介入がなされる一方で、ダルフールやシリアにおいては保護する責任が果たされたとはいえない27。しかし、保護する責任があることで、諸国家が事態を放置することが難しくなったということはいえるだろう28。関与するかどうかではなく、どのように関与するのかに力点が移っているのである。では、このような成果を更にあげるための対策とは、どのようなものだろうか。それは、これまでと同様に、教訓を活かして新たな政策を生み出すことのように思われる。201122 Dallaire(2003)p.90を参照。同書にはUNAMIR司令官であったという当事者ゆえの偏りもみられるが、この点に関しては強い説得力を持って書かれている。23 UN Document, A/55/305-S/2000-809(21 August, 2000), UNDPKO/DFS(2008)を参照。24WorldBank(2003)p.76を参照。25UNDocument,A/63/881-S/2009/304(11June,2009)を参照。26UNDocument,A/59/565(2December,2004),A/RES/60/1(24October,2005)を参照。27ダルフールに関する原因として、イラク・シンドローム(大国の小国への体制変換を伴いかねない武力行使に対するかつてないほどの警戒姿勢)を挙げる見解が多い。たとえば、Weiss(2012)p.63を参照。28 Chesterman(2011)p.282を参照。1027