ブックタイトル佐藤栄作 受賞論文集

ページ
1025/1096

このページは 佐藤栄作 受賞論文集 の電子ブックに掲載されている1025ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

佐藤栄作 受賞論文集

第29回優秀賞部分最適のパラドックス―国連の人道危機への予防・対応・再建をめぐって―1.国連の人道危機政策の成果と課題国連は人道危機下の文民の期待に応えているか。期待に応えている面と応えきれていない面の両面があるといってよいだろう。以下、国連の人道危機政策の課題のみならず成果をも同時に論じる。課題を克服するための処方箋が成果を打ち消す副作用を持つ可能性もある以上、両者を共に論じる必要があると考えられる。まずは、国連の人道危機政策を予防(人道危機発生の防止)・対応(人道危機深刻化の防止)・再建(人道危機再発の防止)5の三段階に分けて、時系列に確認していこう。予防段階でなされるのが開発援助である。貧困やガバナンスが人道危機の原因の一つとなっている場合、貧困緩和やガバナンス改善は人道危機の発生確率を幾分かは低めることとなる。また、先例における国連の関与・介入とりわけ人道的介入の実施は、将来の人道危機の発生を抑止(予防)することになる。コフィー・アナン前事務総長は、この点に着目し「抑止力としての人道的介入」(Humanitarian Intervention as a deterrent)という役割に言及した6。対応段階でなされるのが、人道状況改善への領域国の同意確保である。これは、安保理決議における要請や事務総長特使の派遣といった形でなされ、PKOや人道支援の受け入れを伴うことが多い。一方、このような人道状況改善への同意を確保できない際に、領域国の同意なき武力行使という形をとるのが、人道的介入7である。そして、再建段階でなされるのが、国際刑事裁判と平和構築である。人道危機を引き起こした当事者の訴追により不処罰文化の蔓延を防ぐことや、中央政府の統治能力を高めることなくしては、程なくして人道危機が再発するということになりかねない。中村長史5この三類型は、「保護する責任」を論じたICISS(2001)pp.19-45と同様である。6UNDocument,SG/SM/7136(20September,1999)を参照。7 本稿では、人道的介入を「ある国において人為的な暴力による住民の広範な苦痛や死という国内問題がもたらされているときに、そのような状況にある他国民を保護するため、個別国家・軍事同盟や国連安保理に授権された多国籍軍が、被介入国の同意を得ることなしに実施する、武力による威嚇または武力行使」と定義する。これは、Holzgrefe&Keohane ed.(2003)p.18の定義とほぼ同様である。1023