ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

第9回佳作(6)まとめ冷戦後の新時代における国連の理念として、国際社会の変化に応じ、従来の紛争処理と集団安全保障体制中心の国際の平和と安全維持という理念を発展させた「人類の平和的共存」という理念を提唱し、その実現のために国際社会における総合的調整機関としての役割を国連が果たすのが望ましいことを論じた。具体的には、従来の紛争の平和的処理と安全保障体制の強化に加え、人類の平和的共存の為の国際社会の基本的枠組みの設定及び国際公益の確立と擁護が新たな役割として積極的に果たされるべきである。このような役割を有効に果たしていくためには、諸国家の利害対立の積極的調整役が必要となるが、国連事務総長がその適任であると考える。また、冷戦後の最も大きな国際社会の対立は先進国対途上国の対立である。両者ともに自己の利益に固執するあまり、国連の機能を低下させ、ひいては国際社会の平和と発展を阻害することのないよう相互の立場の尊重と歩み寄りが切に期待されるところである。最後に、平和主義は人間の道徳の永遠普遍なる根本原理であるとしても、国際機構による平和の擁護が、ともすると現状維持を有利とする大国の事勿かれ主義に堕する危険を有することに警鐘を発して結びとしたい。かつて第一次大戦終結時に、近衛文麿は戦後世界を展望して「英米本位の平和主義を排す」と題する一文を雑誌『日本及日本人』(大正7年12月15日号)に公にした。この論文で近衛は次のような鋭い論評を行っている15。平和主義という理想自体はなるほど正義人道に叶うものであるかもしれないが、英米が国際連盟において実現しようとしている平和主義は、彼らに都合のよい現状維持であって正義人道とは無関係であり、「大国をして経済的に小国を併呑せしめ、後進国をして永遠に先進国の後塵を排せしむるの事態」を生むおそれがないとはいえないと述べた。この近衛の指摘は、現在の発展途上国の主張になんと似ていることであろうか。途上国側に問題がないとはいえないが、国連は「先進国本位の平和主義」を拝し、途上国にとっても等しく人類の平和的共存のための国際機関といえる地位を今後も保持していくべきであろう。15岡義武著「近衛文麿」10頁以下(昭和47)岩波書店。**国連の制度及び歴史的事実については、前掲著作の他に、田畑茂二郎「国際法新講上・下」(平成2、平成3)東信堂、山本草二「国際法」(平成元)有斐閣を参照した。89