ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

ページ
877/912

このページは 佐藤栄作論文集9~16 の電子ブックに掲載されている877ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

佐藤栄作論文集9~16

第16回佳作のギリシア・トルコ戦争の結果トルコ国内のギリシア系住民の安全が危機にさらされるや、成立まもない国際連盟が介入した。連盟の初代難民高等弁務官となったノルウェーのナンセン博士らが両国政府の説得にあたり、トルコ国内の150万のギリシア系住民とギリシア国内の50万のトルコ系住民の交換に成功した。とりわけ希土戦争に敗北して困窮状態にあったギリシアへの帰還民定住にあたっては連盟が準備した借款が大いに役立ったのである。もうひとつの事例は第2次世界大戦終結に際してのチェコのズデーデン地方からの約200万のドイツ系住民のドイツへの追放である。チェコ国内のドイツ系住民の存在は1938年にナチス・ドイツによるズデーデン併合の口実となったのであった。また更に付け加えればポツダム宣言を受諾してアジア太平洋戦争に敗北した日本人がすべての植民地から本国に強制送還されたこともあげて良いかもしれない。土地と財産を捨てて移住を余儀なくされたこれらの人々の苦難は察して余りあるが、しかしこれらの住民が有力な少数民族集団として各国に居住し続けていた場合、追放した国と追放先の国の間の関係はどうなっていたであろうか。トルコとギリシアの、チェコとドイツの、そして韓国・中国と日本の間に現在北アイルランドやチェチェンで起こっているような事態が生じなかったとは言いきれないのである。これら三つの住民の強制移動の事例が教えるものは、多数派と少数派の異民族が同一国家の領域内で共存できない場合は、住民の強制移住が追放した国と追放先の国の慢性的紛争を根絶するという点で「より小さな悪」によって「より大きな悪」を終わらせることがあり得るということである。むろん、住民の移動・交換にあたっては移動させられる住民が移動先で受容され定着できる見通しがなければならず、またそれを円滑に促進するための国際機関や地域機構による人的・物的支援が不可欠である。とりわけギリシア・トルコ間の住民交換の成功は住民の移動が必ずしも否定されるべき選択ではないことを示している。そしてこの成功の原因は国際連盟による綿密な計画と支援であった。ここから、地域紛争において国際行政は対立するエスニック集団の移動の可能性も考慮すべきであろう。国際機構を介在させた一定の合意のもとにおける住民の移動・交換の方が、強力な集団が力によって弱小集団を追放することに較べて怨恨が残りにくい点で望875