ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

まや「シンガポール人」という共通のアイデンティティが生まれつつある。またスペイン国家を構成するカスティーリャ、アラゴン、カタロニア、バスク、ガリシアなどの地域集団は歴史的には別個に発展してきており、1930年代後半には人民戦線派とフランコ派の問のイデオロギー対立以上に各地域集団の間の歴史的怨恨が凄惨なスペイン内戦を引き起こした。しかし、現在では一部のバスク過激派の動きを除いてスペイン国家を構成する各地域集団の間で流血の紛争が生じる可能性は極めて低い。喧伝されるカタロニア・ナショナリズムにしてもその実態は文化的なものにとどまっている。シンガポールやスペインにおける国民形成・国家統合は20世紀の国際社会にあっては例外的な成功例かもしれないが、破綻国家の再建を考える上でこれらの事例は詳細な研究に値しよう。2)住民の移動と交換しかしながら、ナショナリズム、歴史的怨恨といった非理性的要素が対立する諸集団を予見可能な将来において和解・融合することが不可能な場合には、特定の集団をまとめて別個の政治的単位を構成させるか(分離独立)あるいは受け入れを認める別個の主権国家へ送還するという手段を考えねばならない。いずれも住民の移動が要求される。住民の移動または交換は古くは旧約聖書にあらわれるアッシリアやバビロニア帝国による隷属民族への懲罰的な捕囚政策、近くはスターリン体制化のソ連における少数民族の強制移住(その結果たとえばボルガ・ドイツ入、中央アジアにおける朝鮮系少数民族問題、チェチェン紛争などが生じた)を想起させるかもしれない。またここ数年バルカン半島で続いた悪名高い民族浄化の名における少数民族の強制立ち退きを連想する人も多いであろう。住民を住みなれた士地から引き剥がし、追放することの非人道性は言うまでもない。しかし住民の強制移動は常に否定されるべきものばかりであったのだろうか。反証としてはいくつかの事例が思い起こされる。まず第一は第1次大戦後に行われたトルコとギリシアの間の住民交換である。長年対立関係にあった両国はそれぞれ国内に相手国の系統の住民(すなわちトルコはギリシア系住民、ギリシアはトルコ系住民)を少数民族として抱えており、これが両国間の対立緊張をなおさら高めていた。とりわけ1922年874