ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

第16回優秀賞注目している。これらの概念は決して所与のものではなく、様々な国内的・対外的影響の下に形成される変動的な概念である。そこから導き出される仮説の一つとして、相異なる安全保障観を抱く国家や民族間においても、政府や市民など様々なレベルで相互交流と相互理解を深めてゆくことで、各々が抱く「国益」や「脅威」の観念に対して相互に影響しあい、やがて妥協線を見出しうるのではないか。もしそうであるならば、国境を越えたシビリアン・コミュニティーが徐々に形成されてゆき、国際的規範に関するある程度の合意が確立される可能性がある。現在、国連が直面している挑戦とは、まさにこの構成主義学派が掲げる仮説の妥当性の検証ともいえる。元来、国益とは国力との関連において定義付けられるものである。最近の研究によれば、1890年代、1930年代、そして1980年代の各年代において、アメリカ国内では「国益」の定義を巡る統一見解は何一つ存在せず、国際社会におけるアメリカの国家目標に関しても国内での合意は全くなかったとのことである。103国益とは常に変容する多様性に富む概念である。ましてや、21世紀の情報化時代においては、アメリカのみならず全世界レベルで人々の価値観が絶えず影響され続けることが予見されよう。我々には、国境を越えて相互の安全保障観にポジティブな影響を及ぼしあう機会がやがて見出せるのではないだろうか。価値観を巡る紛争の平和的解決のためには、何よりもまず紛争当事者がお互いの関心事を認め合うことから始めなければならない。104 21世紀における紛争処理のためにも、国連にはこのための機会を着実に築き上げてゆく役割が求められよう。また、やがて常任理事国間において、拒否権の本質とは何か、そしてどのような場合にその行使が正統といえるか、といった本質的な問題について自発的合意が形成されてゆくことが望ましい。105現在は冷戦終了後の過渡期であり、新たなグローバル・ガバナンスの仕組みはまだ見えない。他方、相変わらず世界各地で地域紛争は発生し、国連の存在意義が一層問われる局面さえ予想される。おそらく、本稿で提案したような様々な改革を行ったとしても、国連103 Joseph S. Nye, Jr.,“Redefining the National Interests”Foreign Affairs, March/April, 1999, p.22-p.35.104ヒュー・アミル、p.143105リチャード・バトラー、P.145847