ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

第16回優秀賞例えばコソボ紛争の場合、NATO諸国にとって人権擁護は大きな動機ではあったが、決して決定的要因ではなかった。53むしろ旧ユーゴスラビア隣接のNATO加盟国にとっては、大量難民流入による国内政治不安定化や独立要求の波及等は、国内の安定に対する直接的脅威であった。このような脅威の排除は明確な国益であり、バルカン半島地域の安定化はNATOの戦略的利益に資するとの戦略的計算こそが決定的要因であった。国連が紛争処理面で有効に機能するには、まずは安保理常任理事国が、次に平和活動に兵力を派遣する国が、その紛争と自国の国益との関連性について十分に認識し、この点に関して常任理事国間でもある程度のコンセンサスが成り立つことが重要である。しかし、ここで問題が二つある。まず何よりも第一に、多国間主義に基づく活勧は参加各国の断固とした意思に基づいて遂行されねばならないが、参加国の国内で国民的支持を取りつけるのが困難な揚合が多い。安全保障上の国益は、脅威の対象が特定の国家や集団でない場合には定義付けるのが極めて難しい。54さらに長期的問題を対象とする場合、短期的には利益がないのになぜ重い負担を強いられるのか、参加国の指導者にとって有権者や議会を説得する作業はたいへん困難である。55また、現在の情報化社会時代においては国益の定義付けが一層困難となっている事情もある。紛争中の残虐行為はメディアを通じてほぼ瞬時に全世界に伝えられ、残虐行為阻止のための介入圧力が瞬時に高まる。しかし、介入後、自国兵士に犠牲者が出ようものならば、今度は逆に撤退圧力が瞬時にして高まる。いわばメディアを通じて、本来ならばさほど重要でもない国益や価値観が即座に最重要課題に押し上げられ、また即座に逆に押し下げられてしまう。この乱高下のプロセスを管理することは政権担当者にはほぼ不可能となっている。今後、国益におけるある紛争解決の重要性を巡って世論の極端なブレを避けるためにも、各国の指導者には、常日頃から国民に安全保障上の問題について理解を深めてもらうための地道な対話努力が求められる。さらに、常任理事国間で、特にロシア・中国とその他の西側諸国との問で、人権や国家53岩間陽子、p.1454ウィリアム・ダーチ、p.17955ウィリアム・ダーチ、p.180839