ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

和解が、国連発足以来の拒否権の障害を取り除き、安保理決議を容易にしたといえる。その実例がイラクによるクウェート侵攻に対してなされた一連のイラク制裁決議である。しかし、湾岸戦争におけるいわゆる国連軍は、軍事的強制措置(42条)として派遣された憲法上の国連軍(43条参照)ではない。米国はじめ各国が安保理決議に応じて任意に兵力を供出したのがその実態である。集団安全保障体制の実効性を支える軍事的強制力の中核たるべき「国連憲章上の国連軍」は、実は存在しないのである。国連憲章によれば、国連軍は安全理の要請により国連加盟国との間の特別協定により創設されるはずであった(43条参照)。しかし、米ソ間で国連軍の規模や兵力分担等についての基本的見解に不一致があったため、特別協定の締結はかなり初期の段階で放棄されたという経緯がある。その結果、現在も国連は、強制措置のために自由に使用できる軍事的裏付けを欠いているのである。のみならず、集団安全保障体制それ自体が、実際上は規則正しく発動しがたいものであり、たとえ発動されたにしても所期の成果を挙げにくいものなのである6。従来、冷戦下の安全理における拒否権発動が集団安全保障体制の機能麻痺を招来したといわれてきた。しかし、この手続上の障害をもって、第二次大戦後の集団安全保障体制の挫折の決定的原因と解することはできないと考える。なぜなら、1950年の「平和のための統合決議」は、拒否権発動によりその任務をはたせない安保理に代わって総会が安全保障の機能を代行することを可能にしており、その限りで拒否権に由来する手続上の障害は取り除かれたからである。それにもかかわらず、その後の実践においても総会による強制措置の発動は容易にはなされず、むしろ、朝鮮戦争終結を境に集団安全保障の機能は後退したのである。このような事態の本質的理由として、現在の国際社会には集団安全保障体制が実効的に機能するための二つの基本的条件が欠如していることが挙げられよう。第一には客観的条件の欠如である。即ち、この制度が侵略に対して効果的であるためには、制裁を行う側の圧倒的な力の優位が前提になる。しかし、国際社会の現状は国家間の軍事的・経済的格差が著しく、もし経済制裁を大国に対して行えば、真先に打撃をうけるのは制裁に参加した側の小国であり、また、大国に対する軍事制裁の場合、それは全面的戦争に発展する危険を806以下、前掲・国際法概説261-2頁参照。