ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

第15回優秀賞済化、規制撤廃論も前に引用したスミスの言説によれば、深慮を欠いていると言わざるをえない。スミス的な『反合理主義的自由主義』は決して無政府的リバタリアニズムのような現状の無規律なグローバリズムを擁護してはくれない。スミスが政治と市場経済を分離したというのは誤謬であり、むしろ政治と経済とを不可分のものと認識していたのは疑いない。スミスが自由市場経済を唱えたのも、世界強国たるイギリスの競争力を鑑みて、それがイギリスの国益(世界の利益ではない!)に適うと考えたからであろう。その証拠に、スミスが批判した重商主義政策の好例とも言うべき航海条例について、「外国との商業にとって、又はそれから生じうる富裕の成長にとって、有利なものではない」が、「その目標とは、イギリスの安全を脅かしうる唯一の海軍力であったオランダの海軍力を減少させること」であったが故に、「最も思慮深い知恵によって全てが命令されたかのように、賢明なもの」であったと言って、スミスは賛美している。スミスにとって国家や政府は経済に劣らぬ、時には優先して、重要性を持っていたのである。自由主義社会が一般的に弱肉強食の社会である以上、自由主義経済がその時代の強者の側から叫ばれたのは歴史的に当然ではある。国際市場で先手を取ったアメリカの国益から、アメリカ政府がボーダーレスなグローバル資本主義を唱えるのと、世界強国たるイギリスの国益から、スミスが自由主義経済を唱えるのとは、皮肉な一致がある。しかし、『国富論』に加えて名著『道徳情操論』を著し、経済に人間を見た道徳哲学者スミスに比して、現代のエコノミストの人間性を無視した、道徳哲学のイロハも知らぬ数理的経済分析は、心理が支配する市場の現実を見なさすぎる。ロシア危機もLTCM危機も問題の根っこは、そこにあるのではないか。本論で理性や性善説など人間性について述べたのも、スミス的アプローチを試みたいと思ったからであった。それこそが、現代のグローバル金融市場の暴走を掴む、見直すべきアプローチではないのか。スミスもハイエクも、利己的欲望に衝き動かされる人間の経済活動が社会を自動的に調和させるなどとは言っていない。むしろ、現代のエコノミストとは違って、人間性の深い669