ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

他方では原子化した個人だけが実在とみなされ、「その中間にあるいろいろな形成物と結合体は抑圧されるべきである・・・というのとは全く違って、社会的交流の非強制的慣習は、人間社会の秩序ある働きを保持するのに本質的な要因である」と考えるのである。よって、地方自治や家族をはじめとする自発的共同体は当然に擁護される。さらに、グローバリズムが軋轢を生む最大の原因である急速な均質化は、『反合理主義的自由主義』においては多少遅延される。長い時間をかけて成長する不合理な伝統や慣習は、納得のいかないものであっても、人々に、「強制的であることなしに、可撓的ではあるが常態においては順守される諸規則を定着させ」ることができる。確かに経済活動の膨張によって均質化されざるをえない多くの必要なグローバル・スタンダードは当然あるだろうが、それが現在のグローバリゼーションのように急激な破壊力を持って、人々に変革を強要しようとしては軋轢や反発を生むだけであって、それを徐々にゆっくりと慣習化させつつ受容させていくぐらいの深慮が必要なのであろう。『反合理主義的自由主義』の代表者たるスミスも、その洞察を抜かりなく、以下のように述べている。「一つの大きな製造業の経営者が、国内市場が突然外国人の競争に対して解放されたために、彼の商売を放棄せざるをえなくなるとすれば、彼は疑いもなく、非常な打撃を受けるであろう。・・・したがって、彼の利害関係が求める公正な顧慮は、この種の変化が決して突然導入されてはならず、ゆっくりと徐々に、そして極めて長い警告の後に導入されるべきだということである。立法府は、もしその熟慮を常に局部的利害関係の喧しい要求によってでなく、一般的利益についての広範な見解によって導かれることが可能ならば、まさにこの理由によって、おそらく、この種のどんな新しい独占を樹立することも、すでに樹立されているそれらを更に拡大することも、しないように特に警戒すべきである。」9以上の議論を総合してみれば明らかなように、現在のグローバル資本主義者が用いる『見えざる手』とは明らかに誤用であり、一切の市場活動に対して監視規制を行ってはならないという無政府的リバタリアニズムの言説も、スミスの文脈からは大きく外れた非古典派経済学思想であるとでも言うべきであろう。世界的に急激に広がる無政府的グローバル経6689スミス『国富論』河出書房新社、世界の大思想14・15。以下のスミスの引用はすべてこれから。