ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

第15回優秀賞ている。よって、例えば通貨危機の際、IMFの融資によってモラルハザードが発生したとすれば、『反合理主義的自由主義』の立場からは非難されるはずだ。『反合理主義的自由主義』者は、そのような自由経済原則を担保する、明示され、非恣意的な規則に則った最低限の規制監視制度を必要と考える。無規律なグローバル市場の暴走を見た今となっては、正常な自由市場には、「強制は全面的に避けることはできない」▲8ということを我々は痛感すべきだろう。ただ、言っておかねばならないことは、スミスやハイエクは、自由市場を自成的な進化の産物と捕らえているが、これは現在では否定されており、自由市場は設計主義的な政治意思による副産物として理解されていることである。しかし、自由市場が設計主義的副産物であったにせよ、それが有効に機能するには慣習なり伝統なりの自然生成的な思想基盤や、市場と個人とに介在するような、伝統に裏付けられた政治制度や国民的政治意識が不可欠であることは否定できないだろう。その意味では、ハイエクやスミスの言う通り、有効な自由市場は依然として自成的要素を含んでいると言える。今日の急激な変化を伴うグローバル市場主義の時代状況においても、依然として『反合理主義的自由主義』が唱えるような、自然生成的要素、慣習や伝統の市場的意義は、今日でも十分通用すると私は確信している。そこで『反合理主義的自由主義』が基礎とする伝統主義、慣習主義について強調したい効用の一つは、現状のグローバリズムが様々な軋轢を引き起こしているのに比して、それによって国際経済の膨張が引き起こす軋轢のいくらかが軽減されるであろうということである。というのも、『反合理主義的自由主義』が含む地域社会、慣習、伝統などの自然生成的要素がグローバリズムと原子化した個人との間に介在し、人々のストレスを和らげるからである。伝統や慣習はそのような共通の背景がないところに比べて、人々を円滑にかつ効率的に協同させることができるため、グローバリズムと個人とに介在する緩衝材としての自由な共同社会を形成する重要な要素となる。『反合理主義的自由主義』は、ハイエク流に言えば、グローバリズムのように、一方では計画的に組織されたグローバル市場と8F・A・ハイエク「自由の条件」『ハイエク全集5』春秋社。667