ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

第15回優秀賞や慣習などの不合理な自然発生的なものを無視する点、個別的なアクター内部では設計主義的であるという点が共通している。個別的なアクター内部では設計主義的であるという意味は、自由市場経済システムを構成する個別的アクターとしての多国籍企業内部では中央統制的であるという意味だ。例えば、多国籍企業の行動を見れば分かる通り、外国工場の統廃合や移転などは現地の社会経済や政府を完全に無視して本社の中央集権的指令によって自由に行われる。しかし反対に一企業を離れ市場的規模で見た場合、ここに合理主義的設計主義との差異があるのだが、企業や投資家の行動の一般的集合体である世界市場システムについては無政府的完全自由主義を唱えるのである。2章でも述べたように、グローバリズムは地域社会や国民国家、伝統、慣習といった不合理なものを完全に無視して均質化してゆき、自然発生的な概念を無視し、破壊してゆく。このように、不合理的な伝統や慣習を土台としないグローバル市場が自律的自生的完全秩序を形成しうるのならば、それは同時にグローバル市場とは合理的かつ可知的なシステムであるという合理主義に行き着かざるをえないのである。そう言えば、大手ヘッジファンドLTCMの危機について、世界的大投資家ソロス7が、市場を支配するのは不可知的で不合理的な心理であり、LTCMに参加していたデリバティブ理論のノーベル学者が市場を合理的、可知的であると考えたために失敗したのだとの旨を述べていた。大投資家のソロス自身が市場秩序を合理的で可知的なものであると盲信していたグローバリストを批判したのだから、興味深い。ソロスが無規律なグローバル資本主義については距離をおいていることは周知であろう。しかし、ソロスがいくら危機意識を持っていたとしても、彼がグローバル資本主義社会で一民間人として生きている以上、グローバル資本主義の健全化に関する言説には限界がある。そうであるならば、もはや国際的な機関しか、グローバル資本主義の健全化に努め、リスクを最小限に抑える最小限の規制監視を行うことはできないだろう。それこそ国連の役割であると思うし、その依拠するところの真正グローバリズム・イデオロギーは『反合理主義的自由主義』しかないのである。7読売新聞朝刊98年10月7日付。665