ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

第15回優秀賞てしまったのである。グローバリズムは、差異化と統一化(均質化)の相互浸透、つまり弁証法的な運動を展開しているとでも言えるのだろうか。その差異化の典型は急速に拡大した所得格差である。デビット・C・コーテン2によれば、アメリカでは1979年来生産性は24%上昇しているが、一方、同じ期間に労働者の実質所得は現実には12%低下し、特に最貧層20%にとっての実質所得の下落は一番酷いという。イギリスでも失業率は減少したかもしれないが、派遣労働やパート・タイム労働は激増し、中間層の大半は没落しつつあるのである。保守自由主義の基盤こそ中間層の存在であったのに、サッチャリズムは少数の超高所得者と多数の超低所得者への二極化を引き起こしたあげく、多数者(低所得層)の不安を拾う社会民主主義の勝利を招いてしまったのである。また、世界の均質化と国内の差異化との絡みで、保守自由主義の衰退の重要な原因の一つとして、急速な国粋主義や民族主義の高揚を是非挙げておかねばならない。失業や移民問題など諸因があるだろうが、グローバリズムとの直接的関連で言えば、グローバリズムの強力な均質化作用によって、国民意識、アイデンティティに対する危機感が人々の間で急激に高まっているのである。グローバリズムと個人との間に介在し、緩衝材の機能を果たしてきた福祉国家や国民国家、地域社会、家族、労使協調型企業などといったものがグローバリズムの潮流に次々と呑込まれ、駆逐され、個人がグローバリズムに自己責任として直接対峙しなくてはならなくなった。原子化した個人は原子(個)として生きるストレスに耐えられず、何かの普遍的紐帯を探し求めるようになる。その結果こそ、「民族」であり、原理主義的「宗教」であり、「人種」であるようなものであり、そこにアイデンティティを求める今日の世界的潮流なのである。人間は個として生きられないという意味では、アリストテレスが人間を自然的にポリス(国)的動物であると述べたのは正しかった。外からは国民国家の力を大きく越えるグローバリズム的攻撃、内からは民族主義、脱構築、多文化主義、人種主義というポストモダニズム的攻撃に晒され、国民国家はイデオロギー的には危篤状態となってしまっている。姜尚中が述べたように、3ハンチントンが、アメリカが西欧文明として団結して戦うべき敵を『文明の衝突』において明確化したのも、アメ2デビット・C・コーテン「グローバル資本主義が人類を貧困化させる」『世界』98年8月号。3姜尚中「グローバリズムとポスト現代」『情況』98年11月号。661