ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

第14回佳作争は憲章第43条に規定されているような国連軍によって解決されたのではなく、集団的自衛権の発動としての多国籍軍によって処理されたわけだが、アメリカが安保理での度重なる決議によって国際的支持を確認することにつとめつつ戦闘行動に入っていったこともまた事実であり、国際的コンセンサスの存在という意味では憲章の想定した集団安全保障に限りなく近かったと言える。しかし、湾岸戦争の手法を一般の紛争に適応することにはいくつかの問題があるように思われる。まず第一の問題は、多国籍軍の位置づけが十分確定していないことである。安保理や国連が集団的安全保障を実現するための具体的な機構(兵力だけでなく作戦指揮や兵站、情報収集にかかわるものも含む)を欠いている以上、集団的自衛権の発動によって大規模侵略を解決することを私は是とするが、それを認めるとしても、安保理の決議(いわゆる武力行使容認決議)が「多国籍軍に、その判断によって武力を用いるほとんど無限定と言ってもよい広範な権限を付与し、しかもそれについて安保理事会の統括ないし監督をいっさい規定しない12」ものだったことは批判される必要があるだろう。正統性の根拠を安保理の決議に置きつつも、安保理からいかなる統制もうけないというのでは、ご都合主義の謗りを免れまい。多国籍軍の暴走の可能性を安保理がチェックするという限定なくして、単なる私的同盟にすぎない集団的自衛権による武力行使を国連として容認すべきではないだろう。湾岸戦争以後、安保理はソマリアやハイチ、ボスニアの紛争解決のため武力行使容認」を決議しているが、武力行使を何らかのルール(戦時国際法等)に基づくものにしていくのでなければ、合意と寛容を中核とする「ルールによるアプローチ」ではなく、超越的な価値によって正邪を判別する「正義によるアプローチ」がまかり通ることになり、対立を抜き差しならないものにしてしまう危険性が高い(「ルールによるアプローチ」と「正義によるアプローチ」については次章で再述することになるだろう)。湾岸戦争方式を適用することの第二の問題はある意味でより深刻である。湾岸戦争は国家が国家に対して一方的に侵略を行うという、憲章の想定通りの紛争であり、安保理は「大規模侵略対応型」の国連の安全保障式を忠実に実現して見せたのだといえる13。しかし、12松井芳郎『湾岸戦争と国際連合』(日本評論社)204頁。13最上前掲書168頁。617