ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

論議、中でも「平和主義」に関わる論議は、憲法学者や政治家をはじめとする一部の専門家や利害関係者に独占されてきた観がある。なるほど、われわれ日本人には半世紀前の「負の遺産」が今も重くのしかかっており、この歴史上の経験を通じて、われわれの意識化には、いまだに財産上の行為を大幅に制限されるに至った破産宣告者と同様の負い目がしっかりと刻み込まれている。ところが、プライバシー権や環境権などのいわゆる「新しい人権」の登場や湾岸戦争を通じてひときわ議論が沸騰するようになった国際連合の集団安全保障への貢献の問題は、ようやく、われわれをして「世界に比類のない平和憲法をもつ国民」との自己評価に安住することから、現実の国際社会と国内社会の変化に対応できる憲法を考える国民へと徐々に引き戻し始めたのである。とりわけ、従来、われわれ日本人が世界の安全保障の問題に対していかに疎遠であったかについては、率直に反省すべきであろう。憲法学の分野では「集団安全保障」という今日ではいささか人口に膾炙した語は、湾岸戦争が勃発するまでは、比較的に普及している憲法書の中にも見出されなかったのである(例えば、清宮四郎著「憲法Ⅰ」法律学全集・有斐閣、橋本公旦著「憲法」現代法律学全集・青林書院新社等々)。その原因は、湾岸戦争までは、大多数の日本人が国連の集団安全保障に日本の自衛隊の貢献が要請されるような事態がくるとは予想もしなかったからである。その理由は、いくつかある。第一に、わが国の大学における憲法学習とは、学問的方法論の問題もあり、ほとんど常に立法論抜きの解釈中心の学習であるため、学生たちは憲法についての自由な政策論的見地からの議論を行う習慣を持たず、文理解釈や論理解釈のみ通じた、硬直した憲法感覚の持ち主となりがちである。そのため、従来、日本で出版された定評のある憲法学習用の基本書とされるような書物はいずれも憲法解釈に重点を置いたものであり、しかも、「平和主義」に関する第9条の解釈については諸説があるが、結論としては解釈上当然に自衛戦争及び制裁戦争は放棄されており、自衛隊そのものの違憲性も濃厚であるという考え方に立つものがほとんどであった。であるから、当然の帰結として、研究者や学生の間では、506