ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

第12回佳作に形成されつつある多国間の安全保障レジームの重要性を再度確認する必要がある。このレジームの育成・維持に日本外交はリーダーシップを発揮(その枠内において)すべきであって、日本のアジア安全保障の構想の大筋はこの枠組に大転換されるべきである。同地域が今後50年先まで順調に経済成長を持続させ得る保証はどこにもない。経済的な不安定が同地域を襲ったとしたら、開発独裁の下での民主化はさらにその独裁の色を強めるであろうし、脆弱な相互依存関係が緊迫したものへとエスカレーションする可能性も高くなる。共通の価値・利益の接点の発見、信頼醸成を目的とするレジームは長期的な同地域の安全保障のためには必要な挑戦の一つでもある。P.クルーグマンは30年前のソビエトの経済的成功と昨今のアジア諸国のその成功との間に資源の総動員という面で共通項を見いだしている。その成功は生産効率の改善などではなく、労働・資本面での投入の増大によって可能になったもので、持続可能な成長は疑問であると論じている。25その成長が仮に途切れた時に新たな不安定な動きが生じないように信頼醸成に努めなければならないのである。E. H.カーは国際政治学の原点ともされる『危機の二十年』の中で、国際政治にあっては調和をつくりだす任務を負う組織された力がなく、故に自然的調和を考える傾向が特に強いと述べた上で、利益の調和をつくりだすことと、利益の自然的調和が存在すると仮定することの間には明確な区別が必要だと注意している。26利益の調和のために長い年月を要するであろうが我々はアジア地域の安全保障レジームの機能を高めていかなければならない。安保体制の第一のレヴェルとしての「安保条約」の検討であるが、第三、第二レヴェルでの体制の変更に国民的な一致のようなものが確認され、またARFの機構化がより現実味を帯びてきた後でその再検討・再定義は行われるであろう。仮にこのレヴェルでの安保体制の破棄に両国が合意した時には、日米の軍事協力は不可能になり、日本はアジア諸国の中で独自に行動することとなる。25“Foreign Affairs”, November/December, 1994.26 E. H.カー『危機の二十年』井上茂訳岩波書店1952年68頁。401