ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

第12回佳作感情的対立を生み出し、同体制が破棄される時である。日米同盟と経済問題とは切り離して考えるべきだとの論を唱える人も多く、前記J.ナイの論文の中にも同条約と貿易問題はリンクさせるべきではないとの記述がある。第三のシナリオであるが、東アジア地域と米国との経済摩擦が高まり、その結果東アジアの経済ブロック化が進展、政治的ブロックにまで発展する場合がそれである。米国を中心とする安全保障体制が緩み、日本を中心とした東アジア諸国の多角的協力関係が強化されることになるというものである。現実的には第三のシナリオに近いものが一番可能性があるといえばある。しかし、東アジア地域と米国との間に経済摩擦が生じ、その結果として政治ブロックが米国を排除する形で創成され、その潮流で日米安保体制が消滅するという手続きは踏まないのではないか。アジア諸国の多国間の政治的枠組は、冷戦後・覇権後の同地域の平和・非核化という共通の利益の中に生み出されているものであり、米国との対立の構図の中で創出されはじめたものではない。むしろ、日米安保条約が揺さぶられるより現実的なシナリオは、より日本の対アジア政策に依ったものになると言える。同地域で初の本格的な安全保障の多国間的枠組としてのARFが今後、順調にその機能を果たすに十分であることが国際的に承認され、機構化に向けて動きだしたときに日本は米国の庇護なく再入亜を果たすのか、あるいは日米との協調路線を踏襲し、同地域の平和創造の作業に取り組むのかの選択に迫られることになる。前者の選択を採る前に、日米安保体制は必ず動揺を見せるのである。米ソ対立の呪縛から解放された国際社会の中での日米の新たな関係を構築すべく、日米安保体制の意義の見直しが米国側から発議されており、今年十一月に行われる日米首脳会談での共同声明などの文書で明確にされる。米国側はそれに関連して、欧州・アジアの同盟国と締結している物品役務相互融通協定(ACSA)の日米合意を求めており、さらに80年代レーガン政権下のSDI構想を受けるかたちのTMD(戦域ミサイル防衛)構想への日本の参加を強く求めている。国際安全保障に関するヴィジョンはいまだ米国主導であり、日本初の安全保障戦略の明確な提示はされていない。坂本義和教授は「安保体制」という言葉の意味には三つの異なるレヴェルがあると指摘399