ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

一方、J.ナイ論文では、米国のアジア外交の方策として地域機構の設立、またNATOのような地域同盟の創出が選択肢として述べられてはいる。しかし、前者では同地域に機構を作ることで米国が撤退してしまうのではないかという危惧が生まれるとされ、後者の道を採ればロシア・中国の懸念を生むものとされ結局両者とも彼は否定する。では氏の述べる最善策はというと、つまり二国間同盟を重視した上でのアジアへの前方展開軍の維持にみられる、米国のリーダーシップであると考えられる。また地域機構が創出されたとしてもそれは同盟の代替ではなく、地域の信頼醸成措置とされ、その機構は米国のリーダーシップを補完するものとされている。彼は同論文の結尾で、多国間主義・ASEAN地域フォーラム(ARF)を支持しているとしつつも、こうした多国間主義的活動は二国間関係を補完するものだと言及している。しかし、果たして米国のリーダーシップを補完すべく地域機構なるものは設立され得るだろうか。たとえ、大国が現状維持に同意したとしても、一ヶ国、もしくは複数国が安全は拡張によって最もうまく供給されると信じている時には安全保障レジームは形成されないのである。14今後の米国のアジア政策が拡張主義か否かはここでの議論ではないが、ミサイル・ギップに対しパーセプション・ギャップに特徴づけられるポスト冷戦期にあってはちょっとした認識のズレが国際問題にエスカレーションしかねない。我々の認識はあくまでも同地域の安全保障という共通の利益に基づくレジーム形成へのアプローチであり、一国優位体制の補完ではないのである。日本をアジアの中へバランサーとして出すという極めて勢力均衡的な政策をC.ジョンソンは唱え、日米両国にとって利益あるかたちで同盟を解消する旨を力説している。もちろんその役回りは米・中のバランサーを含むものと考えられる。また、J.ナイは米国のアジア戦略はあくまでも二国間同盟システムに依存するものとし、地域機構・レジームが形成されたとしてもそれは同国のリーダーシップ補完のプロセスとして理解される必要があると考えている。両論文に共通する思考の枠組みは、アジア・太平洋地域における安全保障レジームの萌芽をあくまでも構造的アプローチで理解しようとし、同地域の新たなパワーバランスを主軸にした視座によるものである。つまり、先のレジーム分析の際の四つ39214 Robert Jervis“Security regimes”International Organization 36. 2(Spring 1982)p. 361.