ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

における国連の不完全な機能を改善するための提案がなされている。前章で述べた様に、普遍的国際組織としての国連は個別国家や地域的国際機関が持ち得ない客観性・中立性を保持している。そのため、国際社会全体の意思を代弁するという固有の役割があり、国際法上比類のない自由性が許され得る。その点を意識しながら、以下では、特に第4章の「平和創造」と5章の「平和維持」について主に国際法的な観点から検討したい。平和創造(Peacemaking)が目指すのは既に生じてしまった紛争の停止であり、最も困難が伴いかつ危急の必要に迫られる場合もある活動である。憲章第33条には政治的解決と司法的解決が併記され、いずれを採るかは紛争当事国の裁量に委ねられている。国際社会における「法の支配」確立を重視する立場からは司法的解決が理想とされるが、法の欠缺が多い等の理由により、紛争の性質次第では政治的解決の方がより有効な場合も多々存在する。次段落で述べる様にすべての紛争を一般的にICJ等の管轄とするのは時期尚早と思われ、現在の複数の解決手法のそれぞれをより洗練させていくというアプローチが採られるべきである。先ず「国際司法裁判所」(the world court)に関しては、2000年末までの一般的な強制管轄権受諾が提案されているが、これは現実的な考えとは言い難い。確かに、ICJによる強制管轄権の設定は、国際法を現状の様な単なる行為規範としてではなく裁判規範としてその実効性を飛躍的に促進させる事につながり、国際法分野における長年の課題となっている。しかしながら、国際社会における多様な価値観の並存状態を包摂してかつそれらの最大公約数的調整が法技術的に要求されるという事情を鑑みれば、国際法は未だそこまで成熟していない、とみるべきである。また、当然に付随すべき判決の強制執行権の観点からみても、国家主権の尊重が第一とされる現在の国際社会において国際組織にそれ程の権限を委任する事には抵抗が大き過ぎ、不可能に近い。判決の実際の執行が当事国の意思に委ねられざるを得ないとすれば、仮に国際裁判所による強制管轄権が実現したとしても実効性に乏しいものに陥る危険が大きい。以上の理由により、この提案の実現にはなお四半世紀程の準備期間が必要と思われ、それを意識した上で目指すべき長期目標といえる。348