ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

危機的状況を示す例として、ワールドウォッチ研究所は本年8月に発表した報告書の中で、『中国を誰が養うのか』と問いかけている。2030年、約5億人の人口増加により穀物需要も約4.8億トン(対1990年比43%増)となる中国では、工業化に伴う都市化の進展(農業用地の宅地・工業用地転換と農業人口の減少)のために耕作地面積は20%以上も減少する。その結果、実に2億トン程度の穀物輸入が必要と推計されているが、これは93年の世界総貿易量に相当する。この推計値も肉類やビールなどの消費が増大すればさらに悪化し、一人当たり消費量がアメリカの半分にまで達すれば、約3.8億トンもの輸入が必要になる。世界全体で見れば、これと同規模(以上)の状況が、中国を除くアジアやアフリカでも進展することになる。しかも食糧輸出国のほとんどが、自国の人口増加や都市化、あるいは農業の経済的競争力の相対的低下や耕作環境の劣化・破壊に伴う廃業者の増加に伴い、輸出量を逓減させつつある現在では、解決がこれまで以上に困難になることは不可避である。(特に60・70年代に食糧自給率向上を掲げた先行途上国が、相次いでこれを放棄してさらなる工業化の推進を目指していることは、深刻なインパクトを与えている。)世界同時進行の工業化は、環境問題への影響をさらに増大する。二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量制限は、温暖化防止条約の締結にもかかわらず、現状ではきわめて悲観的にならざるを得ない。その結果、特に熱帯・温帯に位置する途上国の沿岸都市部では、致死的伝染病の爆発的流行の危険さえ予測されている。森林伐採や排水による汚染をはじめとする水系の破壊は、生活用・農業用・工業用を問わず水資源全体に対し、徐々に影響を与え始めている。このほかにも、オゾン層の破壊や酸性雨など、国境を越えた地球レベルの環境問題は、その漸進性と人類のモラトリアムによる対応の遅れから、抜本的解決までにはとても至っていまい。このような環境問題の深刻化は、国連設立当時には予想されてはおらず、またその設立の理念の背景にも含まれていなかった。しかし人類および地球上の全ての生命にとって現在唯一の統合的国際機関である国連にとって、人口問題を含む地球レベルの環境問題への236