ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

した。このことは、軍事力の全面的行使の自己抑制を余儀なくされること、及び軍事力の優位性の後退と経済力・技術力の相対的増大を意味するものである。第二は、国民国家システムの変容とその空洞化が避けられなくなったことである。環境破壊、難民、飢餓、貧困、人口、人権、累積債務、麻薬、エイズ、テロ・・・等これらの諸問題の多くは、「貧困」をベースにした途上国と先進国の相互浸透から生じる深刻な問題であるが、主権国家を越えて解決が求められている問題である。第三は、国家的なアイデンティティが相対的に低下し始め、それに代わって地域的・宗教的・民族的・歴史的に多様で多層的なアイデンティティが顕著になったことである。たとえば、超国家的な地域機構であるECといったようなイニシャル化した超国家組織や新たな地域連合が出現し、その一方で、国家システムのもとでこれまで虐げられてきた小さな民族・地球共同体の自立がますます強まった。第四は、ナショナリズム(国民国家主義)とトランスナショナリズム(脱国家主義)の相克である。安全保障、外交政策、開発といった諸課題は、もはや単なるシングル・イシューではなくなり、複合化し多重化しあうようになった結果、これら問題領域に民衆が脱国境的なかたちで参画するようになった。政治的概念である国民と文化的概念である民族と、人種的血縁的共同体的アイデンティティにもとづくエスニック・グループとが社会生活空間のなかで、しかもさまざまなかたちで複雑に絡みあわざるを得なかったのである。主権国家の内外にわたって噴出している民族主義や人権、宗教の対立に根ざした社会紛争の多発は、なによりの証左である。第五は、欧州を中心舞台とする冷戦の終結は、第三世界にとって複雑で矛盾した意味を持っている。それは一方で地域紛争の解決を促進し、北の大国の軍事干渉の危険を減じたものの、反面、南への北の無関心を助長する恐れがある。また、ソ連・東欧の変革は、第三世界でも独裁批判や多党制を促進する効果を持ったが、同時に社会主義体制の自壊は、第三世界での社会改革を行うにあたって厳しい状況を生み出している。18