ブックタイトル佐藤栄作論文集9~16

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概要

佐藤栄作論文集9~16

第10回最優秀賞第二次大戦後での反植民地運動から発生した「独立型」と違って、「少数民族の分離-分裂の民族運動」いわゆる「エスニック型」である3。最近、領土問題など古典的なタイプの民族問題と違う、「新しい民族問題」とも言うべき症候群が目立っている。それは、国内の民族問題と表裏一体の経済危機に絶望したソ連、東欧、アジア・中東国民が豊かなEC諸国を目指し、限られた雇用機会を奪い合っている。これは「南東」から「北西」へ欧州からアジアに至る「ユーラシア民族大移動」のうねりを引き起こしている4。民族問題と地域紛争の平和的解決に向けて国連の積極的役割を増す必要がある。軍事行動や軍事的制裁よりも国連における独自外交によって地域紛争を予防するため、もっと力を発揮すべきである。民族問題の解決について考えてみたい。第一はECのような地域統合の実験を学ぶことである。例えば、民族紛争を調停する常設機関の設置も考えられる。妥協と協調を目指す多極共存型民主主義に基づいて、少数民族問題を大きな枠組みで解決すべきだ。中東においては、「全中東安保会議」(CSCM)を作る構造を提言したい。第二に、国連は中東でも一国単位のミクロの支援策ではなく、アフリカや湾岸全域にマクロの経済復興や環境汚染対策等に貢献しながら、信用回復に努める必要がある。海外へ出稼ぎ労働者の失業を救い、大量難民の発生を防いで、中東、アジア、アフリカ全域に及ぶ民族間の緊張緩和にも寄与する。経済の活性化こそ民族衝突を避ける最大の良薬だと思う。第三に、民族問題が広域化しないために、難民や出稼ぎ労働者を招き、職業訓練教育などを通して帰国後の経済発展の担い手として育てることである。不法労働者や経済難民の流出を抑制するには、送り出し国の産業育成過程への援助は自助努力を促すことが大切であろう。今年9月13日イスラエルとパレスチナの間に相互承認で合意したことは歴史的な出来事だと思う。「涙と流血はこりごり」というラビン首相の合意声明は全世界の人の心に共鳴を得たに違いない5。その裏にノルウェイの地道な努力が2000年もの間互いに妥協できなかったこの宿敵をテーブルに就かせたことを各国は見習うべきだ。3西島建男「民族問題とは何か」朝日新聞社、1992年。4山内冒之・民族問題研究会編集「入門・世界の民族問題」日本経済新聞社、1991年。5朝日新聞、1993年9月14日。115