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概要

satoh

第8回優秀賞る時の方が、集団の生産性が高いことが立証されている。更に成員のモラールや自らの集団-の誇りも協同状況の方が高く、不安や敵意などは競争状況に比べ生起Lにくいことも明らかにされた。これは競争よりも協同の方が、我々のアイデンティティを安定させたりアイデンティティを獲得していく上で、効果的であることを示唆していると思われる。さてここで、民族というものを以上のような心理学的視点から考えてみると、民族とはある集合体に所属する人間が、自分たちの存在意義を明らかにするために、他との協同や競争を繰り返しながら形成した大規模な集団の一つである、と理解される。たとえば汎スラブ主義や汎ゲルマン主義といったものが唱えられるのは、民族がその成員のアイデンティティ形成と深く結びついており、民族を通して自分たちが何者であるかを問い、民族を通して自分たちのアイデンティティを確立しようとするからであろう。この意味において歴史は、個人や民族のアイデンティティ形成のプロセスであるとみることができる。前章で述べた連鎖とも言える感情的対立を生み出す歴史の流れを、このようにアイデンティティ形成のプロセスと理解するならば、国際紛争における当事者間の根底にある感情的対立も、アイデンティティの危機に直面して生み出されたものとして分析することが可能であろう。その観点においては、紛争の根底にある報復や感情的対立は、アイデンティティの確立の行き詰まりや、アイデンティティを脅かされるところから生じると理解される。また臨床心理学者は、紛争の当事者各々が持つ心理力動を捉えることで、個々の人間が、民族が、歴史が、今そこで何を起こそうとしているのかを、アイデンティティの形成と危機という文脈において、理解していけるのではないかと考えるのである。個人史から歴史を理解しようとした事例研究は心理学に限らず数多くみられるが、アイデンティティの確立やその危機の克服という視点から個人史の分析を行ったのはp・sychohistoricalapproachを提唱した先のエリクソンである。彼はルター、ジェファーソン、ヒトラー、ガンジーといった人達の個人史について、その人たち自身の7イデンティティの確立や危機と、彼らが置かれた時代、あるいは所属する宗教、民族、国家などのアイデIl)ンティティの確立や危機、その克服といったものを、重ね合わせて分析している。そこで971