ブックタイトルsatoh

ページ
616/1034

このページは satoh の電子ブックに掲載されている616ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

satoh

私自身は、多くの日本人と同様に時間厳守をモットーとし、 (日本人であれ外国人であれ)時間にルーズな人を嫌い、(インドネシア人からも悪評を買っている)店員のサービスの悪さにしばしば憤慨した。安易に金品をねだる習慣を好ましく思わない。交通法規も交通道徳も天から無視して好きなように遣る運転ぶりに腹を立てたこともしばしばだし、スリ、ひったくり、泥棒などの被害を受ければ、それらが日常茶飯事となっている社会を憎んだとしても無理はなかろう。不衛生な生活環境と低い医療水準のために我が身と我が子の生命が脅かされれば、誰がそこを楽園と思うだろうか。ビュロタラシーの未発達と非能率から官庁の諸手続きが滞るのも極く普通のこと、それに泣かされたのも一度や二度どころではない。だから私は長期のインドネシア滞在から帰国するたびに味わうあの感慨を忘れることはできないのである。整然とした街と豊富な物財、少ない犯罪と未来をほぼ予測できる国に帰ってきたのだという安堵感に空港ロビーに荷物を投げ出し(投げ出しておいたところで誰が盗もうかり、その場で思う存分ぐっすり寝込んでしまいたい誘惑にかられた程であった。もちろん私が好感をもったことも多い。ガメラン音楽に象徴される長閑さ、耳に楽しい音楽的なジャワ語、親切で親しみやすい人々などなどはいつまでも忘れられない。だから段々日本の生活に慣れてきて感じる日本人が持つあの妙なよそよそしさ、無表情、あわただしさ、ゆとりのなさとは対照的に、彼地では気楽に人々と声を掛け合い、冗談を交わし合っていたことが懐かしく思い出されるのである。考えてみれば、人間が人間であるために必要不可欠な長年慣れ親しんだ自分の文化を、一時的にもせよ、超越したり排除するなどというのは大変難しいことであるOレッドフィールドはフィールド・ワークをしている時の自分を正直に見ていた.とはいえ、だからといって文化相対主義のもつ価値を過小に評価しては元も子もないだろう。既に示したように、単純素朴な白民族中心主義で見た異文化論と文化相対主義の目で解釈されたそれとは全く異なっているのである。私が「ゴムの時間」に憤慨したのは限られた時間内で最大限の成果をあげようとする欲占14