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概要

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第5回佳作「異文化との乱蝶の中で」染谷臣道1.ディレンマ私たちに純粋な目、純粋な舌、純粋な耳、そして純粋な脳などというものはない。私たちの身体はその臓器も含めてことごとく目に見えない文化というものによって覆われている。いわば文化という眼鏡、文化という補聴器、文化という着物を通してのみ外界と接し得るのだ。実にひ弱だった、後に人間となってゆく可能性を持ったHサルHはこの文化のお陰で人間化の道を歩み始め、厳しい環境のなかで生き長らえることができた。文化は生物としての人間が責の人間となるための必要不可欠な要素である。それぞれの民族は祖先が培ってきた独自の文化に守られている。しかしまた文化は人々にとって必要不可欠なものであるがゆえに、人々もそれを守ろうとするのも道理である。そしてそこに自らの文化を最も良きものとする自民族中心主義(ethnocentrism)が生まれてくるのも必定であるO忘れようにも忘れられない故郷の匂い、幼き日々父母から受けた慈しみと掬い交ざっていやが上にも自分たちの生き方-の愛着が強められる。それなくして自信を持ち、安心して日々を送ることのできる人々がいるだろうか。だから文化というものは、その文化によって生きる人々に支持されるよう常に明確な指針を与え続け、よく統合されていなければならない。自民族中心主義が欠かせない所以である。しかしながら、そういう自民族中心主義そのものが同時に人々を置かせる障害にもなるとは何という皮肉だろうか。それぞれの文化はそれぞれ異なった価値を志向する。そして志向される価値は時代によっても異なる。明治以来日本はひたすら近代化を目指してき占05