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概要

satoh

第4回佳作堤氏がもし、"詩人"というもう一つの面を持っておられない、ただの企業人であったとしたら、或いはそういう心境になられなかったかも知れないし、前記のような文章も恐らく菩かれなかったことだろうと思う.心の中に過去を振り返るゆとりと謙虚さを持ち、自然の営みに眼をやる機会にも恵れ、次の世代を憂える愛の心をも持っておられるのであろうこの人にして初めて到達し得た心境ではないだろうか。日本の今日の如き繁栄の中で、堤氏ほどの立場にある人にして尚かつ「行きどころがない」「漠然とした不安がある」と、ひそかに思っておられるとすれば、何の力も寄りどころもない我々のような小さな存在、或いは大衆が、不安や心配の思いを抱き、なんとなく頼りなさを味わっているのは不思議ではない。このように、あふれるばかりの物や情報、それに驚くばかりに技術が発展した事が、人間を「何となく不安な気持ちにさせ、行きどころがないと思わせ」たり、殊にそれが現実の問題として人類の滅亡につながる一里塚とでもなるようなことがあれば、それこそナンセンスと言うほかはあるまい。そこで、これから先の社会生活や教育の中で特に考えなければならないことは、人間がこれまで「科学技術の進歩が、あたかも人間自身の進歩」ででもあるかのように思って来たのは、全くの思い違いであって、科学技術の進歩と人間本来の進歩とはおよそ別次元のものであることに早く気付かせ、反省させることであると思う。具体的に言えば、科学技術の進歩は進歩としておき、それを使用、利用、或いはチェック管理する人間の側が、少しでも早く良識を取り戻し、それを高め、押し広げて行くことによって、人類相互は勿論のこと、他の生物との共存、環境の保全等に最大の関心を払い、大自然の法則の前に謙虚になることだと思う。そして、そのためには、科学者を始めとして、教育、宗教、法律、言論、実業の各分野の人、特に政治家、その他少なくとも世の指導者を以て任ずる者が、大いに反省自覚して、自分自身を取り戻し、残り僅かとなった今世紀末までの十六年間に、自分は何をなすべきか?と、常に自問自答しながら真剣に考え且つ行動してもらいたいものだと思う。491