ブックタイトルsatoh

ページ
488/1034

このページは satoh の電子ブックに掲載されている488ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play
  • Available on the Windows Store

概要

satoh

私が幼年期(大正十年頃)を過した家のすぐ近くに、一軒のお豆腐屋さんがあった。当時の私から見ると随分の年寄りのおばさんと、その娘さんが住んでいて、二人が朝早くから起きて、その日一日の需要に見合うお豆腐、こんにゃく、油揚げを造っていたO今思えばそのおばさんは未亡人だったのだろう。私の村や周辺の部落に祭りや仏事がある日は、そのおばさんたちはおお忙しの有様であったことが、子供である私の眼にもよく分かった。私は一銭嗣貨を何枚か握りしめて、味噌こし用のザルを持ってお豆腐を買いに行ったものである。油揚げは稲藁で通してぶら下げて帰った楽しい思い出がある。この女手だけの小さなお豆腐屋さんの働きで、一つのテリトリーの中の住民は、その基本的な食生活の中のひとつを一応満たしていたのである。そしてその範囲-はほかの新しいお豆腐屋さんが店を出すことを遠慮し、既存のお店をおびやかすことはなかった。だから特別な競争もなく、そのおばさんたち母娘は安心して.精一杯良いお豆腐を造ることに専念できたのだろうと、今になって思いかえしてみるのである。そしてその頃、そのお豆腐屋さんが出す汚水で近所が迷惑をしたり、トラブルがあったというような話しを聞いたおぼえは無い。幼年の私はお使いに行くだけでなく、よくそのお豆腐屋さんへ遊びに行ったものだ。豆を炊き、臼で挽き、しぼり、こし、ニガリを入れたりなぞして造りあげられて行くお豆腐のすぼらしさと、働く母娘のその後ろ姿に、何かしら神々しいものを感じていたように思う。現在はどうであろうか。末端の消費者から何十キロも何百キロも離れた場所で、大量生産された豆腐が、パックされ、トラックで運ばれ、冷凍に並び、家庭の冷蔵庫に入れられ、そしてやっと食卓にのぼるのである。だから、その間の所要時間や環境を思えば、防腐剤も使用せねばならぬだろうし、容器も要る。工場での大量生産であるから環境公害も起る。遠距離輸送にはガソリンも食う。それがまた新たな環境公害をひきおこす。村のお●●■●●ばさんたち母娘が造っていたお豆腐と、工場で大量生産される豆腐。その様変わり酎肖費者の栄養や健康に、また環境にどれほどプラスになったのであろうか?488